パラノイアだけが生き残る 時代の転換点をきみはどう見極め、乗り切るのか

心配性(≒パラノイア)の人が破壊的イノベーションから組織を守ることができるという話。
世の中の評判通り、非常に参考になる本であった。技術立社を標榜する会社が多いが、技術を磨くだけでは生き残れない。世の中と技術の変化を読み取り、破壊的イノベーションに対処していかないと生き残れない。その具体的な対処法が、インテルを経営してきた著者の経験をもとに書かれている。その考えの延長で個人のキャリアパスについても後半言及している。こちらも参考になった。

以下、書評メモ。

第一線の現場の人が変化にいち早く気づく。営業担当者は顧客のニーズ変化に気づき、財務担当者は事業基盤の変化に気づく。
そういった現場に近い中間管理職が、経営陣が方針転換を決断する前に、損失を出していたメモリー事業から拡大しているマイクロプロセッサー事業へ資源移行を行っていた。そのため、経営陣の決断もスムーズにできた。

他社が技術的な可能性の限界に挑んで市場の反応を試すまで、まずは静観している方が良いかもしれない。それから追いかけ、追い着き、追い越す。これがテールランプ戦略。テールランプ戦略の欠点は、追い越したとき、自分で指針を決める必要があること。自分が先頭に立った時は、戦略転換点に常に注意しなければならない。そのとき、ノイズとシグナルの見分けがカギとなる。

戦略転換点のシグナルとノイズの見分け方。
・ライバルの顔ぶれが変化する。→何か重大なことが進行している。
・かつて自分や自分の会社にとって大切だった企業が今ではそうでない。→産業内の力関係の変化。
・自分も含め、周囲にずれてきた人が出てきていないか。→世の中が変化した

営業担当者は変化に敏感である。
営業成績が落ちれば給料が減る。
売れないテクノロジーは技術者のキャリアを台無しにする。

10Xの改良でこの製品が面白くなる、脅威になると直感したら戦略転換点の始まりを見ている可能性がある。
初期バージョンの質に惑わされず、新製品や新技術の長期的な可能性や重要性を見抜く必要がある。

データを用意して議論したがるが、データはあくまでも過去のもの。
一方、戦略転換点は将来の話。
今まさに現れつつある現象に対しては、データに基づく合理的推論に対抗して、事例に基づいた観察や自分の直感を頼る必要がある。

技術者は知識の力を持ち、マネジメント層は予算配分や人事異動など組織の力を持つ。戦略転換点では両者が協力する必要がある。

経営陣にとって戦略転換は葛藤が伴う。
やがてその状況を受け入れ、行動に移し、乗り切っていく。
それができなければ、過去の戦略に思い入れのない新しい経営陣がやってきて戦略転換するだけ。
実はこの点が重要。
実は企業のトップ交代で求められるのは経営手腕でなく、過去にしがらみがないこと。
→現在の経営層に迎合することなく今の自分がやるべきことを愚直にやっていけば、必要とされる時がくる。

個人のキャリア転換点も戦略転換点と同じ。
しかし、キャリア転換点は個人に全ての責任がかかるから、戦略転換点より重い。

多くの企業の場合、間違ったから倒れるのではない。
企業の死は、自らの方針を明らかにしないから訪れる。
決定を下さないと、勢いも資源も減っていく。
最も危険なのはじっと立ちつくすこと。

マーク・トウェインのことば
「ひとつのバスケットに全ての卵を入れて、そのバスケットから目を離すな」
競争には膨大なエネルギーが必要。
バックアッププランを用意する余裕はない。

執筆時のラジオメモ。

言葉が焚きつけの石炭となり、
蒸気機関車のように走り出していた。

家族てときどき難しい。
大きな病気をして自分に嘘をつけなくなった。
父が会いたがっている息子は今の自分とは違う。

ソイミートは肉の代用ではない
ソイミートにはソイミートしかない良さがある
劣化コピーではない

自分のやるべきことを思い立った。

インテルの創業者である著者が、そのビジネス人生において何度も直面したビジネス環境の変化の中で、いかに経営戦略の転換に苦闘して来たかを描いたものだ。「私が、全身全霊を尽くしながら、戦略転換とは何なのかをどのようにして学んだか、そこから死ぬほど苦しみながら少しずつでも抜け出す道を見つけるのに何が必要だったか」(p107)が語られている。

基調にあるのは「イノベーションのジレンマ」だろう。ある時代のビジネス環境への適応に成功し、競争上の優位性を築いた企業や事業部門は、既存の優位があるからこそ、大きなイノベーションなどの結果生じる劇的な環境変化への適応に苦しみ、失敗して衰亡するケースも多い。

日本の事例で言えば、90年代以降の総合電機メーカーの例であり、また自動車メーカーや銀行が今直面し始めている状況が、まさにそう言うものだろう。もちろん日本にも成功した事例だってある。たとえばデジカメ時代の到来で、米国のコダックは生き残りに失敗したが、富士フィルムは戦略転換に成功している。

本書は1996年の復刻版のようだが、人工知能、ロボット化、IoTなどの新たなイノベーションの波が多くの産業分野で「適応か、さもなくば衰亡か」という挑戦を企業と人々に突き付けている。出版社はそれを感じて復刻したのだろう。読みは当りで、かなり売れているようだ。