山本五十六が「水から石油」という詐欺にあう話だが、戦争前の石油調達に苦心する日本の事情が丁寧に書かれている。窮すれば鈍する、ニーズや欲求が大きいとだまされたり失敗するリスクが大きくなる。
石炭液化
水素添加法:石炭粉末とタールを混ぜたノリ状ペーストにし、高温高圧で水素添加
石油合成法:蒸気によって石炭の分子を一酸化炭素と水素に分解し触媒で合成
低温乾留法:石炭を乾留して軽質油やタールを回収する
1935年にイタリアがエチオピア侵攻で石油禁輸され苦しんだ。それを見たナチス政権が石炭液化に力を入れた
昭和11年に代用燃料工業の振興策を発表
7年後の昭和18年度にガソリンと重油、それぞれ100万キロリットル
想定される需要の4割を生産目標
水素添加法10工場
石油合成法11工場
低温乾留法66工場
必要資金7億7千万円
当時の国家予算29億、大和クラス戦艦1億数千万
石油禁輸に対し人造石油の増産で戦争を避けようという意見があった
昭和15年93万キロリットル
昭和16年124万キロリットル
の計画に対し、
2万キロリットル(達成率2%)
19万キロリットル(達成率15%)
そんため、人造石油に期待した戦争回避が無理になった
人造石油の失敗の理由について、戦後のアメリカ戦略爆撃調査団に加わったニューヨーク市立大ジェローム・コーヘン教授は、
「7年計画のような人造石油建設を行うには膨大な鋼材を追加割当しなければならなかったにも関わらず、人造石油工業への実際の割合は、1940年以降むしろ減少した」(「戦時戦後の日本経済」)
資材不足に加え、「日本の技術者は総じて石油工業の経験が浅く、その技術は貧弱であった」
さらに技術開発方針の失敗。石炭への水素添加にこだわったが、ドイツでもうまくいかず、ドイツはタールの水素添加で対応していた
オクタン価はイソオクタンの割合。イソオクタンが多いガソリンはノッキング(燃焼不良)が少なく、燃焼効率高い。航空機燃料として高オクタン価ガソリンは必須。
日中戦争でオクタン価の低い日本製の航空燃料で渡洋爆撃を行った際、中国軍機に追いつかれ、被害大。急遽、オクタン価の高い航空燃料をアメリカから購入したことで、被害が減った。
日本の精製技術は、アメリカのようにオクタン価の高いガソリンができなかった。