庭園日本一 足立美術館をつくった男

足立全康の自叙伝。偏った考えだと感じる部分もあったが、そういう点でも人と違うということなんだと思った。非凡な結果を出す人は、人と違う考えをするものである。人と違うことに対し、人一倍努力したことがわかる。そのようにして作られた足立美術館には是非行ってみたい。

それと、結果を出してきたから皆がついてきたのだ。

多くの失敗もしてきたことがわかった。大きな成功は、トライを続けた結果。

・店では私は稼ぎ頭だった。マッチですぐに点火できるタドンが出回り始めた頃であり、他の誰よりもタドンを売った。例えば販売先で、女中が火鉢に移すのまで親切に手伝ったりして得意先を増やした。軍隊時代にとったきねづか、人の気持ちをくすぐるのは得意だった。そうした陰で、こっそりと小売りもしたが、大将からは働き者だと気に入られた。

・このとき私が気を付けたことは、自分だけ儲けて、人に損をさせるようなことがあっては絶対にだめだということ。相手を儲けさせる気持ち。それさえあれば、トラブルは起きたりしない。きれいごとのようだが、
「自分はつぶれても、相手には絶対に迷惑をかけない」
ということらの誠意さえ理解してもらえれば、話は八部がた成功したといえる。そのことはを社員にも徹底して教えた。

・戦雲は悪くなる一方だった。口にこそ出さないが、気持ちのうえでは敗戦後の商売のことばかりを考えていた。不遜というべきか、したたかというべきか。刀剣を作るかたわら、地元の山林170町歩を八万円で購入したのも、時代の流れ、つまり日本の敗戦を確信したからである。

・人間社会というのはよくしたもので、どんな逆境にあっても、必ず自分のことを気遣ってくれる何人かの恩人、友人、知人がいる。自暴自棄になる前に身の回りを振り返ってみるとよい。他力本願も、信じればこそ通じる。

・ここでのコツは、同じ土地の半分を自分も一緒に買うのがミソである。単なる情報提供だけではスポンサーも不安に思うが、本人も買うのなら間違いあるまいと安心する。金を貸す人間の微妙な心理までおもんぱかって、大いに信用と実益を得た。

・いつも、二方、三方が喜ぶようにして儲けるのが、私の商売哲学である。

・不動産の購入は、思い切りのよさが大事である。不動産屋が持ってくる物件がいいものであれば、ほとんど言い値で買う。そうなれば当然、不動産屋は喜ぶし、どんどんいい情報を持ってい来るようになる。安く買い叩くだけが商売ではない。何でも高めに買ってあげ、売るときは相場よりも一割くらい安く売る。それが信用につながる。ほどほどの欲のほうが長い目で見たとき、かえって大きな利益をもたらすことを知るべきだ。手前勝手な欲だと、人がついてこない。

・私はそれまで長い間、苦労に苦労を重ねて商いをよってきた人間なので、物事には必ず儲け時というか、好機があることをイヤというほど思い知らされてきた。カンが閃いたら即断即決すべき、と強く肝に銘じてきた。これまで、一瞬の逡巡と躊躇のためにどれほど儲け損なったか、数知れない。

・それから数年間、寝ても覚めても暴落のショックが大きすぎて、さすがの私も「」する毎日だった。寝付きは悪いし、食欲もわかなかない。覆水盆に返らず、の意味が身に沁みた。私はこの時、
「誰もが買いに走る総人気ほどこわいものはない」
とつくづく思った。

・類は友を呼ぶ、という諺があるが、社会に大きく羽ばたこうと思ったら、自分と同レベルの人間とばかり付き合っていては駄目だ。発想にしても行動にしても、一定の枠を越えられない。相手の力を取り込んでこそ限りなりパワーが生まれる。エネルギーも増殖される。

・目上の人たちの信認を得るためには、まず自分に人間としての魅力を備えるえることが肝要だ。夢を持つこと、志を高く持つことだ。

・私が、目上の人と会う時に心がけたものの1つは、時間を厳守すること。10分前。相手次第で繰上げでその分長く会える。また、備忘録を携帯する。聞きたいこと、知りたいこと、相談したいことを予め項目別に書き記しておく。そこに、どんなことを話し、そのために何をなすべきか素早くメモに書き留める。

・私は、威張ることはつまり一種の驕りだと常日頃考えているので、家から一歩外に出ると、かかぶことばかりである。腰を低くしておればまず、人から生意気だといわれたり、いらぬ妨害をされるようなことは起きない。これは商売に限らない。人付き合いの鉄則である。

・最初のうちは食事に誘い、それからコンパクトか何か、ちょっとした小物を贈り、いよいよという時に、わに革のハンドバッグのような心にズシリと響くものを贈って、間髪を入れずパクリといただく。

・人間は我が強い動物なので、何事も自分でやったと思いがち。しかし、周りの人たちに有形無形の支援があってこそ。「生きている」というより「生かされている」といった方が的確である。